不妊の未来
大和「前に10回目の体外受精をした患者ですが」
患者と聞いて茉由は顔を上げる。
大和「今のところ順調に胎児発育しているようです」
茉由「それはよかったです!」
胎児心拍が確認されて、不妊外来を無事に卒業したところまでは知っていたけど、その後妊娠が継続されているかは分からないことだったので、茉由はホッと胸を撫で下ろした。
茉由「このまま無事に出産まで漕ぎ着けてほしいですね」
大和「えぇ。本当に。またその報告が入り次第、お伝えします」
茉由「お願いします」
と茉由は言ったものの、自身はクリニックを辞めるのだということを思い出し、訂正しようと口を開いた。
でも飲み物と食事が運ばれてしまい会話は中断。
大和「いただきましょう」
手を合わせる大和と同じように手を合わせてから前菜をいただく茉由。
一口食べて驚きのあまり言葉を失った。
大和「美味しいでしょう?」
茉由「はい。こんなに美味しい日本料理初めて食べました」
大和「これを食べさせてあげたかったんです。美味しい料理は人を幸せにしますから」
大和は柔らかく微笑んで茉由を見つめる。
茉由「あ、ありがとうございます」
大和の茉由を思う心が歯痒くも嬉しい茉由。
大和の視線を避けるようにお礼だけ伝えたけど、心はドキドキしていた。
それを隠すように口に料理を運ぶ茉由。
あっという間に一品を平らげてしまい、手持ち無沙汰な茉由はチラッと大和の方を見た。
綺麗な箸使いと品のある振る舞いに視線が釘付けになる。
そんな茉由の視線に気づいた大和は上目遣いで茉由を見た。
目が合い、ドキッとした茉由は飲み物に手を伸ばした。
茉由「わ、ウーロン茶も美味しい」
独り言のように呟く茉由に大和はまた微笑む。
続く料理のひとつひとつにも茉由は驚き、そして美味しいと頬に手を当てた。