妖怪ホテルと加齢臭問題(天音と久遠)
天音が厨房で、
道具をステンレスの配食台に、
出していると
「失礼します。
三角(みすみ)さんですね」
入り口に、一人
先ほど来た外国人集団にいた男性が、立っていた。
「はい、何か?」
なめらかな日本語、日本人だ。
Tシャツとジーンズ、
綿ジャケットの袖をまくり上げてと、ラフな格好ではあるが、
黒縁眼鏡で、所作はビジネスマンのようだ。
「私は・・」
と言って、高級ブランドの長財布から、名刺を、取り出した。
「はい・・」
天音は名刺を受け取った。
名刺には
リッジモンドホテルグループ
日本地区・エリアマネージャー
近藤 翔太
「あの、何か・・・」
「久遠から、この旅館の売却について伺っております。
実務的な問題や手続きは、
私の方が担当になりますので
よろしくお願いいたします。
先にご挨拶だけでも、と思い、
伺いました」
近藤は、30代半ばなのだろう。
仕事がバリバリにできる、
一流企業の社員に見える。
「あの、タカハラ様とは・・
どのようなご関係なのですか?」
天音は、地元の不動産会社の
おっちゃんの顔を、思い浮かべた。
「タカハラ?
ああ、久遠の母方の姓ですね。
久遠は友達ですが、私の上司です。
彼はリッジモンドの一族で、
本社の幹部ですから」