妖怪ホテルと加齢臭問題(天音と久遠)

突然の訪問者


紅葉(くれは)旅館に
戻ったのは、4時過ぎだった。

山の日の入りは早い。

慣れていても、人里離れた
この旅館はうっそうとした木々が茂り、怖いものがある。

旅館の入り口の石に、
男が座り込んで、たばこを吸っている。

ええ・・・

旅行者風の・・・この辺の人ではない。

天音は自転車を降りて、そろそろと近づいた。
スマホを準備しておく。

緊急連絡110通報といっても、
パトカーが来る頃には、
すでに事件が、終わってからだろうが。

救急車も消防車も、山を上がって、下がらなければ、ここには
来られない。

「ポツンと一軒旅館」なのだ。

天音は逃げ出せるように、
かなり距離を取って、
声をかける作戦にした。

「あのぅ・・
こちらに用事がある方でしょうか?」

男が顔を上げて、天音を見た。

「ここが、もみじ旅館(ホテル)・・?」
その声は、
自信なさげに聞こえた。

「そうですが・・御用件は・・?」

本当は「もみじ」ではない。

「くれは」なのだが・・
知らない人はそう読むだろう。

「今日、泊まれるのかな?」
男が質問した。
「宿泊はできません。
営業はしていませんので」
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