叶わぬ恋だと分かっていても
「俺からのキスを受け入れた時点でもう後戻りは出来ないと思わない? それに……家族にはなれない代わりに、俺は戸倉(とくら)さんに恋人としての愛情は惜しみなく注ぐつもりだから」

 そう畳みかけられて、今更御破産(ごはさん)には出来ないのだと示唆(しさ)されてしまう。


 ズルイ、って思った。

 引き返すことも、未来を夢見ることも叶わないのだと宣言された恋に、何の意味があるのだろう?


「戸倉さんはまだ若い。キミが本気の恋をするって決めたら、その時は潔く身を引くから。――だからそれまでの間、キミの時間を俺にくれないか?」

 緒川(おがわ)さんとお付き合いしていることが前提なのに、別の相手と巡り会うことを想定するなんて。それって……結婚相手を得るためならば、浮気も自由にしていいよ、ということですよね?

 普通なら嫉妬をしてくれるであろう、他の男性をにおわせるシチュエーションも、「俺には怒る資格はないからね」って線引きされた、そんな恋。


 私は人一倍結婚願望が強い。
 そんな私にこんな提案あんまりだよ。

 そう思って泣きそうな私の心も知らぬげに、「一緒にいる間は絶対に寂しい思いはさせないから」と緒川(おがわ)さんが宣言する。
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