叶わぬ恋だと分かっていても
 同僚たちがいなくなってからはあちこちの車メーカーの車に買い替えられるようになったけれど、小さい頃は本当、同じメーカーの車ばかりだった。


 そんな父だったけど、私たちが小学校にあがる頃には、たまに泊まりがけで走るような距離――大抵行き先は鳥取県――の仕事に出ることがあった。

 そういう時は夜帰ってこない。
 恐らく今晩はそれだ。

「今日はお父さん、出雲?」

 キッチンに立って夕飯の支度をしている母に、何の気なしを装って聞けば、「うん、そう」とつぶやくような返事があって。

 お母さんの声も沈んで聞こえて、私は心臓をギュッと掴まれたような息苦しさを覚える。

 姉は私が今日ここへ来ることを知っているから、わざと寄り道をして帰るって言ってた。

『私は邪魔しないようにするからしっかりお母さんと話し合いな』

 姉にそう言われたのを思い出して、私はギュッと拳を握りしめた。
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