叶わぬ恋だと分かっていても
 私はお馬鹿さんだから、なおちゃんが私に付き合おうって言ってきた時、最初に何て言ったか、つい忘れてしまいそうになるの。

 あの時なおちゃんは「妻に対して恋愛感情はないけれど家族としての情はある。それを分かって欲しいんだ」って言った。

 それをわきまえた上で付き合って欲しい、って。

 そんななおちゃんが、彼が言うところの〝自分に無関心な家族〟を捨てて、健気(けなげ)に自分だけを想う愚かな小娘のことを選んでくれる日なんて、決して訪れやしないって分かってるのに。

 世間一般で言うところの〝コソコソとした不倫〟とは違う自分の境遇に、少しだけ。
 そうほんの少しだけ。
 もしかしたら明るい未来が拓けるかも? なおちゃんの気持ちが告白時(あのとき)とは変わっているかも?と、有り得ない期待をしてしまう、恋に溺れた哀れな自分(おんな)が私。

 その浅はかさが、ズルズルとなおちゃんとの実りのない関係を引き伸ばしてしまっていたのだけれど、それも今日でお終いにするの。

 私は……私を大切にしてくれる家族をこれ以上裏切れない。

 だから――。
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