叶わぬ恋だと分かっていても
 押し黙った電話口。お互いの吐息だけが通話口から聞こえてくる。

 実際に対面で話していない分、相手の表情が見えないからやたらと音に敏感になってしまう。

 どちらもが、相手の出方を待っているような、そんな息の詰まる数秒間。

 それを先に破ったのは、もちろん私。



「あのね、なおちゃん。私……もうなおちゃんとの関係……お、……終、わりに、し……たい」

 実家でお母さんの話を聞いて、そう伝えようと心に決めていた。

 だけど実際なおちゃんに「さよなら」を告げようとしたら、何度も何度も言葉につっかえて、思ったようにスムーズに言えなかった。

 なおちゃんは、私がたどたどしくも、懸命に彼との関係にピリオドを打とうとするセリフを、黙って聞いている――。


 私、心の中でシミュレーションしていたの。


 ――嫌だ、菜乃香(なのか)。別れたくない。

 ――そうだね、菜乃香(なのか)。随分長いこと引っ張ってしまったけど、潮時だね。


 なおちゃんは一体どちらの言葉を私にくれるんだろう?
< 118 / 242 >

この作品をシェア

pagetop