叶わぬ恋だと分かっていても
 なおちゃんが別れるも別れないも私次第だって……全部全部私に丸投げしたから?

 恥も外聞もかなぐり捨てて「俺は菜乃香(なのか)と別れたくない」って追い縋ってくれなかったから?

 きっと、どっちもなんだって私、分かってる。


 別れるって心に決めたつもりだったけれど、今でもすっごくすっごくなおちゃんのことが好きだから……嘘でもいい。
 彼に「考え直してくれ」って引き止めて欲しかったんだ。

 無造作にベッドに置きっぱなしになっているスマホの電源をオンにしたならば、もしかしたらなおちゃんから沢山の連絡が入っているんじゃないだろうか。

 『菜乃香(なのか)、俺、やっぱりお前と別れたくない』って……そんなメッセージが届いてるんじゃないかしら。

 そんなことを考えて。

 でも何もきていなかったら?って思ったら、怖くて電源を入れられないの。


***


 鏡の前――。
 私は勇気が出せないままに、スマートフォンを握りしめて、身動きが取れずに固まっている。


「……会社……どうしよう」

 それも決めあぐねたまま。

 私という人間は、何もかも本当に優柔不断だ。

 そうしてきっと、私の大好きななおちゃんも。


 不倫ができる人って……もしかしたらそんな風にどこかしらルーズで決断力がない、流されやすい人間の集合体なのかも知れない。

 ルーズでいい加減な人たちばかりだからきっと。

 こんなこと間違ってる。
 周りはもちろんのこと、当人たちにだって不幸な結末しか用意されていない。

 そう分かっていても、目先の欲に溺れて、考えなきゃいけないリスクから視線をそらして流してしまえるに違いない。

 そう。今の私みたいに――。


 だって、私がもしもその真逆のタイプの人間だったなら。

 きっとこんな泥沼には最初っから足、突っ込みっこなかったと思うもの。
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