叶わぬ恋だと分かっていても
 あのときのなおちゃんは、声はいつも通り穏やかだったけれど、二言三言交わすと「もう切るね」と否応なく通話をシャットアウトする感じで。

 彼が殻に閉じこもってしまっていたあの日々は、私にとってもすごくすごく辛かったのを覚えている。


 ちょうどその前の年、なおちゃんは本庁から、市内の別の施設――ゴミ処理場に異動になったばかりだった。

 少ない会話のなか、その環境になかなか馴染めないんだ、と吐息混じりに話してくれたのを鮮明に覚えている。

 別にいじめられているとかそう言うのではないのだとも話してくれて――。

 逆に期待されすぎてそのプレッシャーで押しつぶされそうなのだと淡く笑った彼は、異動になって割とすぐ、ゴミ処理工場の副工場長という立場を負わされていた。



 私も転職をした身。

 急に電話を音信不通にしたりしたから。
 もしかしたらその時の自分と重ねて見てしまったのかな、と何となく思って。


「私、大丈夫だよ?」

 なおちゃんの腕にきつく抱きしめられたまま。
 今も尚、なおちゃんの胸元にグッと顔を押し当てられていてくぐもった声しか出せなかったけど、私はハッキリとそう言った。
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