叶わぬ恋だと分かっていても
 なおちゃんと一緒に居続ければ、私は絶対にお母さんに花嫁姿なんて見せてあげることは出来ない。

 でも、それを見るまで死ねないと思ってくれているお母さんに、その姿を見せずに親不孝な娘を続けていれば、あるいはお母さんは心残りで病気に勝てるんじゃないかとも思って。

 なおちゃんと別れて、共に未来を見据えられる相手を見つけて結婚をして。
 一日も早くお母さんを安心させてあげたいと(こいねが)う自分と、大好きななおちゃんと離れたくないと思う自分。

 相反する思いに右へ左へふらふらと揺れる私は、それでも必然と言うべきか。
 お母さんの看病のため、なおちゃんと会う頻度(ひんど)自体はどんどん減っていった。

 毎日仕事後に彼と逢瀬(おうせ)を重ねていた時間は、入院しているお母さんのお見舞いへ行く時間にすげ変わって――。

 週末も、以前のようになおちゃんと遠出をして人目をはばからずにイチャイチャ出来る人並みの幸せよりも、いつ病院から連絡があるか分からないからと――。公然とはイチャつけなくても市内に居たいと言う思いに翻弄(ほんろう)される日々。

 決してなおちゃんへの愛情が冷めたわけではなかったけれど、自分の中で優先すべき相手が、確実になおちゃんからお母さんにシフトしていたのは事実だった。


 以前、お母さんになおちゃんとのことがバレた時、彼女を悲しませたくないからとなおちゃんと別れようと頑張ったことがある。

 だけど結局、私はその後何年も何年もお母さんを裏切り続けてなおちゃんと一緒にいる未来を選んでしまった。
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