叶わぬ恋だと分かっていても
***


菜乃香(なのか)、もしかして……俺といるの、まだ緊張する?」

 テーブルにのせたまま所在なくモジモジさせていた私の手を、さり気なく握ってくる緒川(おがわ)さんに、私は小さくうなずいた。


 緒川さんって、言葉は少ないし、返事は基本ものすごい熟考型のくせに、行動だけはいつも迷いがなくて素早い。


 握られた手から緒川さんの温かな熱が伝わってきて、心臓がバクバク跳ねる。


 正直そんなに好みの顔ではない彼なのに、何故か一緒にいる時間が長くなればなるほど、少しずつ異性として意識してしまう割合が高くなっている。

 ダメだって思うのに、ズルズルと彼に引き摺られているうちに求められると応えたくなる私の悪い虫が徐々に頭角を現してきて。

 ずるい男だと分かっているくせに、少しずつでも仲良くなりたいって思うようになってきてしまっている。

 でも、その糸口がつかめなくて凄くもどかしい。


「そっか。実はこう見えてさ、俺も結構緊張してるんだ。菜乃香(なのか)みたいに若い女の子が俺みたいなおじさんと一緒にいてくれるの、まだ信じられないし」

 口ではそんなことを言いながら、全然そんな素振りなんて見せない彼が憎らしくさえある。


「ね、菜乃花。お酒を飲んだら少しは緊張がほぐれるんじゃない?」


 ギュッと包まれた手に力が込められて、私はその大きな手の温もりに、慌てたようにコクコクと首肯したのだ。
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