叶わぬ恋だと分かっていても
 小さい頃は地区の子供会行事が終わるたび、学年も男女も関係なくみんなでわちゃわちゃ遊んで。

 タツ兄もそんなメンバーの中の一人だったのだけれど。
 鈍くさくて要領の悪かった、泣き虫の私の面倒をよく見てくれた優しいお兄ちゃんだった。

「そうそう。久しぶりだね」

 同じ自治会のメンバーとは言え、二十軒以上間に家を挟んでいたため、タツ兄が中学に上がって、子供会から抜けたあたりから疎遠になっていた。

 幼い頃はあんなに仲が良かった同級生の女の子達とだって、中学へ入学して違った部活を選んだ途端、ほとんど接点がなくなってしまったのだから、当然と言えば当然の流れだったのだけれど。

 実家にいた間も、道端なんかでタツ兄のこと、ちっとも見かけなかったなと思って。

「タツ兄、今でも実家?」

 そんなことを思いながら何気なく聞いたら、「まさか!」と即否定された。

「親がさ、いつまでも家にいたら甘えが出るから一人暮らししろって方針でね……。就職してすぐに追い出されたんだ」

「わー、厳しいっ」

 子供の頃に戻ったみたいな気持ちでクスクス笑ったら、「だろ? 世知辛い家なんよ」と、タツ兄も一緒になって笑ってくれる。
 それは目が線になってしまうみたいな……懐かしい人懐っこい笑みで。

 変わらないその笑顔に、私は何となくホッとした。

「……おっと」

 笑い過ぎたのかな。
 タツ兄が手にしているカップがぐらりと傾いて、中身がトプンッと大きく波打ったのが見えた。

 あのカフェにはスパウトタイプのフタだってあったはずなのに。

 そう言うのをしていないからちょっと揺らしただけでカップの中で暴れたコーヒーが飛び出しそうになるんだよ。
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