叶わぬ恋だと分かっていても
***

 あの日から、私はお母さんのお見舞いのついでにタツ兄のお見舞いにも寄るようになって。

 タツ兄はタツ兄でお母さんの病室まで出向いてくれて、お母さんを見舞ってくれたりした。



「ひょっとしてなのちゃんと建興(たつおき)くんはお付き合いしているの?」

 最近ではお母さんの病室へ行く前にタツ兄の病室へ寄って……。
 二人で連れ立ってお母さんのお見舞いに行くことが増えていたから。

 お母さんがふわりと笑ってそんなことを問いかけてきたのも、ある意味必然だったのかも知れない。


 実際、私はタツ兄のことを異性として意識してしまうことが増えてきていたし、そのことに母親であるお母さんが気付いていても不思議ではなかった。

 でも、タツ兄は恐らくただただ幼い頃の延長みたいな気持ちで、妹みたいに私を甘えさせてくれていただけだと思う。

 それに――。

 最近ちっとも会えていないけれど、私にはなおちゃんがいるのだ。

 そうだよ、って言ってあげたらお母さんが安心するのは分かっていても、そんなこと言えるわけがなかった。


 だから――。

 私は慌てて
「ちょっ、お母さんっ」
 ――いきなり何を言い出すの!
 と続けようとしたんだけど。

 タツ兄がまるで私の言葉を封じるみたいに「そうなれたらいいなぁって……下心ありまくりでおばちゃんに取り入ってるところです」って被せてくるから。

 私は思わず言葉に詰まってタツ兄を見上げた。

「――ん?」

 なのにタツ兄は何でもないことみたいに私に柔らかく微笑み掛けてきて。

 私はそんなタツ兄の悪びれない態度に、真っ赤になってうつむくことしか出来なかった。
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