叶わぬ恋だと分かっていても
久々のデート
 タツ(にい)に自分とのことを真剣に考えて欲しいと言われて数日。


 今日はお父さんがお母さんに一日中付いているからと言ってくれて。
「父さんたちも夫婦水入らずで過ごすから、菜乃香(なのか)もたまには息抜きをしておいで」
 と気遣ってくれた。

 恐らくそれは私がタツ兄と再会したこと、タツ兄がお母さんの前で意味深な発言をしたことに起因しているんだと思う。

 だけど――。

 両親からそう言われた私が、二人から与えられた貴重な隙間時間を一緒に過ごそうと選んだ相手は、タツ兄ではくなおちゃんだった。


***


「久しぶりだね、菜乃香(なのか)

 今日は久しぶりに高速を飛ばしてお隣の県まで遊びに行こうと言う話になっていて。

 そう言う時のお決まりコース。

 数百円払えば丸一日車を停めておける新幹線の駅付近のパーキングに車を停めた私は、そのままなおちゃんの車の助手席に乗り込んだ。

 いつものように何気なく席に着いた際、シートの位置や背もたれの傾きにちょっぴり違和感を感じて。

 長いこと会えていなかった間に、なおちゃんの奥さんがここに座ったのかな?とぼんやりと考えて、その資格もない癖に、一丁前。私はとても寂しい気持ちに支配された。


***


 目的地に着いた私たちは、アーケード街を二人で腕を組んで歩いて。

 市内では決して出来ない、まるで恋人同士のような時間にほんの束の間お母さんのことを頭の片隅に追いやった私は、このデートの最後にタツ兄のことをなおちゃんに切り出そうと心に決めていた。
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