叶わぬ恋だと分かっていても
「わ、私はなおちゃんと――」

 別れられない?

 あんなに頑張ってなおちゃんとの離別を決意したのに。
 これからはタツ兄を愛すことが出来るよう、タツ兄だけを見て、彼の気持ちに応えていくんだ。

 そう思ったはずなのに。

 何て脆弱な覚悟なの――。

 視界がゆらゆらと涙に滲んで先が言えずにいる私に、なおちゃんが追い打ちをかけてくる。

「それは今日結論を出さないといけないことなの? もっとじっくり考えてからじゃダメなのか?」

 そんなことをしたら、またズルズルと同じことの繰り返しになってしまう。

 そう分かっているのに。

 なおちゃんからの提案はふわふわの綿菓子みたいに甘くて……私はついほだされてしまいそうになって。

 まるでその揺らぎを確定させたいみたいになおちゃんの唇が近付いてきたから……私はギュッと目をつぶった。


 ――と。

 カバンの中に入れて助手席気に置いていた携帯電話がバイブレーションを伴って着信を告げてきたから。

(――お母さんに何かあった!?)

 予期せぬ電話はそういう危険を多分に(はら)んでいる。

 私はなおちゃんを押し退けるようにして立ち上がると、助手席のカバンを持ち上げた。

 震える手で中から携帯を取り出して画面を見たら――。

「タツ、兄……」

 それはまだ、お母さんと同じ病院の別病棟へ入院しているはずのタツ兄からの着信だった。
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