叶わぬ恋だと分かっていても
***

 私が戸惑いに携帯の画面をじっとみつめている間にもずっと着信は続いていて。
 あまりにしつこく鳴るから(やっぱりお母さんに何かあったのかも!)って不安になった。

 実際に何かあれば病院から直接電話が掛かってくるはずだ。

(あ、でもお父さんがいるのにわざわざ病院からは掛かってこないか)

 あるとしたら今日一日お母さんに付き添っているはずのお父さんからのはず。

 だけど――。
 頼みの綱のお父さんは、大好きな妻の緊急事態に滅法弱いことを私は知っていた。
 もしかしたら予期せぬ事態に気が動転して、身動きが取れなくなっているのかも知れない。

 たまたまその場にタツ(にい)が居合わせたのだとしたら――。

 私はなおちゃんに「ごめん」と断りを入れると、震える指先で通話ボタンをタップした。


「――もしもし?」

『なのちゃん?』

 私が応じると同時、タツ兄が被せるように私の名を呼んで。
 次いで心底ホッとしたように『良かった、通じた』とつぶやくから。

「あ、あのっ」

 にわかに不安になった私は、こんな時なのに横から私の腰を抱こうとしてくるなおちゃんが鬱陶(うっとう)しくてたまらないの……。

 私はなおちゃんの手をそっと押さえると、距離をあけて座り直した。

 そのままなおちゃんをじっと見つめて視線だけで〝邪魔しないで〟と訴えると、タツ兄との電話に集中する。

『僕さ、今なのちゃんのお母さんの病室に来てるんだけど……』

「えっ」

 お母さんの病室に、という言葉にドキッとしたと同時、電話の向こうで話し声が聞こえて来て。
 ガサガサッという音の後に、『なのちゃん、貴女、今ひとりなの?』と問い掛けられた。

 私は声の主がタツ兄からお母さんに変わったことにドキッとして……。

 すぐには答えることが出来なかった。
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