叶わぬ恋だと分かっていても
***


菜乃香(なのか)、大丈夫?」

 いつの間にかお会計を済ませたらしい緒川(おがわ)さんに肩を抱かれてレストランを出た私は、不意に吹き付けてきた冷たい冬の風に身体をすくませた。

 そうして、この寒さにさらされてもなお、膜がかかったみたいにぼんやりした頭で思う。

 何やってんの!って。


「ちょっと酔いを覚ましたほうがいいかな。……車までは距離があるし、キミの足取りも(かんば)しくない。近くのホテルに入るんで、いい?」

 そこで不意に腕時計に視線を落とした緒川さんを見て、今何時だろう?と思う。

 待ち合わせてお店に入ったのは、確か19時(しちじ)過ぎだった。

 コース料理とは言え、そんなに長居はしていないと思うから、きっと21時(くじ)過ぎたくらいかな?

 私とこんな風にしているけれど、緒川さんは奥さんもお子さんもある身。

 時間が気にならないわけないよね。

 素面(しらふ)だったなら、その仕草を見た瞬間に私、ハッとして「帰りますっ!」って言えたと思う。

 だけどお酒に判断能力を奪われた私は、そんなことさえ思いやれなくなっていて。


 今日を退けて今までで3回。
 こんな風に緒川さんとふたりきりでお出かけしたりはしたけれど、実は彼と私はキス止まり。

 肉体的な関係には至っていない。
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