叶わぬ恋だと分かっていても
お母さんとの約束
 病院へ駆けつけてみると、意外にも病室にはタツ兄はおろか、お父さんの姿もなくて。

「なのちゃんいらっしゃい。貴女とゆっくり二人で話したくて、お父さんたちには席を空けてもらったの」

 お母さんのいるベッドの間仕切りカーテンをちらりとめくって顔を覗かせるなり、母が一人きりなことに驚いて私は動きを止めた。
 そんな私に、開口一番母から掛けられた言葉がそれだった。

「私と……二人で?」

 ほんの少しベッドをリクライニングさせて、身体をちょっとだけ起こしたお母さんのどこか寂しそうな視線に、私の心臓はバクバクと嫌な音を立てて騒ぎ始める。

「お母さんね、今日はてっきりなのちゃんは建興(たつおき)くんと一緒にいると思ってたの」

 お父さんが私に自由な時間をプレゼントしてくれたことは、お母さんも知っていた。

 お母さんはご飯をそんなに食べられているわけではないけれど、闘病期間自体がまだ二ヶ月ちょっととそんなに長くないので、病状の割に痩せていない。

 でも、どんどん進行している病気のせいで、胆管が詰まって黄疸が出てきていて。

 先日主治医の先生が内科的措置で何とか胆管を通す処置を試みて下さったのだけれど、胆管の一部が物凄く狭くなっていて無理だったと報告を受けたばかり。
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