叶わぬ恋だと分かっていても
***

 お母さんが「当たり前よ」と答えてくれたのを聞いた瞬間、私の中で何かがカチッと音を立てて切り替わったのが分かった。

「――お母さん、私、ちょっとお父さんを呼びに行ってくるね」

 お母さんに声を掛けると、私は携帯をギュッと握りしめて病室を後にする。

 頬が涙で濡れてひんやり感じられたけれど、そんなのは気にしない。グズグズな顔をしてたって構わないの。
 今は。――今だけは……。ちゃんと顔を上げて、前を向いて歩かなきゃって思った。

 それほどまでにお母さんの言葉は私の中で大きくて。

 ずっとずっと、私が幸せになることは、お母さんの死と直結していると思い込んできた。

 でも、違うんだって思えたから。

 だから、今度こそちゃんと――。

 私は手にした携帯をギュッと力強く握りしめた。


***


 ロビーに行くと、お父さんとタツ(にい)が窓際の席へ横並びに座って、外を眺めながら自動販売機のカップ入りコーヒーを飲んでいた。

 私は二人に近付くと、「お父さん、お母さんが待ってるから行ってあげて?」と声を掛けて。

 タツ兄には「お願い。少しの間、そばにいて欲しいの」とお願いをした。
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