叶わぬ恋だと分かっていても
 私一人だと決意が揺らいでしまうかも知れないから。

 今からすることをお父さんには見られたくないけれど、タツ(にい)には見ていて欲しい。

 私はタツ兄の横に腰かけると、携帯電話の履歴からなおちゃんの電話番号をタップした。

 あえてスマートフォンの画面をタツ兄から隠さず操作したのは、沢山残る〝なおちゃん〟の履歴の山を見てもらって、今から電話する相手が私にとって親密な間柄の人なのだと察してもらえたら、とかズルイことを考えてのことだった。

 なおちゃんとのこと、タツ兄には言えなくて隠したままでいたけれど、全てを知った上でもう一度私のことを見つめ直して欲しい。

 私の汚いところも全部知った上で……それでも私を愛してくれるとタツ兄が言ってくれたなら。

 その時こそ私はタツ兄の手を取ろうと思っているの。


***


 コール数回。

『……菜乃香(なのか)? な、にか……あったの?』

 どこか《《息が上がった様子》》のなおちゃんの声に、私は違和感を覚えて。

 私はこういうなおちゃんの声を《《よく知って》》いた。
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