叶わぬ恋だと分かっていても
「なのちゃん、こんな天気の悪い時に洗濯物たくさん出してごめんね」

 ベッド横に積み上げられた洗濯の山を抱えた私を見て、お母さんが申し訳なさそうに眉根を寄せるから。
 私は「大丈夫よー。洗濯は洗濯機が勝手にやってくれるし、乾かすのだってコインランドリーに持って行ったらあっという間なんだから」とにっこり笑って見せる。

 日中は普通に仕事をして、夕方就業後にお母さんのお見舞いへ。

 その時に汚れた洗濯物を受け取って、綺麗にしてきたものと交換して。
 面会時間ギリギリまでお母さんと一緒にいた後で家に帰って、洗濯機を回してコインランドリーへ行く。

 他の家事も含めて色々こなしていたら、寝るのは毎晩深夜〇時を過ぎていた。

 本当はこの大雨の中、沢山のパジャマやお母さんの傷口に当てられた腹帯を洗濯するのも……。
 もっと言うと濡れた衣類を抱えてコインランドリーへ(おもむ)くのも、寝不足な身体には物凄く重労働に感じられて疲れ果てていた。

 なのに――。

 SOSを出しても自分は(とつ)いだ身だからと。
 近所に住んでいるくせに手を貸してくれないお姉ちゃんにも、そんな姉を『姉ちゃんには小さい子供もいるんだから無理は言うてやるな』と(かば)うお父さんにも、イライラが募る日々。

 たまにでも構わない。
 重い洗濯物を病室から車まで運ぶ手伝いをしてくれるだけでも違うのに。

(誰か助けて)

 そう思うけれど、みんなお母さんの病状のことでピリピリしていて……誰にもそんなことを頼める気配じゃなかったから。

 私はひとり、誰にも吐き出せない鬱憤(うっぷん)を抱えて今にも限界を迎える寸前だった。
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