叶わぬ恋だと分かっていても
「タツ兄……」

 私のすぐ背後に立っていたのはお母さんの手術前日、なおちゃんとのことを打ち明けたまま疎遠(そえん)になっていたタツ兄で。

 一ヶ月くらい音信不通だった間に退院したのかな?
 タツ兄の服装がパジャマではなく私服になっていることに、時間経過を見せつけられた気がした。

 突然現れたタツ兄を前に、驚いた顔をして固まってしまった私に、バツが悪そうにタツ兄の視線が一瞬だけ伏せられる。

 でも、すぐに意を決したみたいに私に向き直ると、
「ずっと連絡しなくてごめん。自分なりに気持ちの整理したくてウダウダしてたら、あっという間にこんなに時間が経ってしまってた……」
 言って、タツ兄が頭をガバリと下げて。

 そうした瞬間、肩の荷へ添えられたままだった彼の手にグッと力がこもって、私はそちらへ引っ張られそうになってよろめいてしまう。

 というのも、タツ兄はまだ松葉杖を要する身だったからだ。

「ごめん……!」

 私を支えにしてしまったことを申し訳なさそうに謝るタツ兄へ、私は「大丈夫だよ」と答える。

 タツ兄は少し逡巡(しゅんじゅん)して私の荷物から手を離すと、杖を支えにして体勢を立て直した。
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