叶わぬ恋だと分かっていても
 そんな大病院のメイン入口に当たるこんなところでラブシーンなんて繰り広げているのだから、注目されてしまうのは当然なわけで。

 私の言葉にタツ兄が慌ててパッと手を離して。
 きっと無意識に怪我した方の足を地面についてしまったんだろう。

(いて)っ」

 と言ってふらつくの。

 私は慌てて彼を支えると、タツ兄がバランスを取り戻したのを確認して足元に転がったままの松葉杖を拾い上げる。

 それをタツ兄に手渡しながら「バカ……」とつぶやいたら「ごめん、嬉しくてつい……」とタツ兄が申し訳なさそうに眉根を寄せた。

 彼のその顔を見て、私は真っすぐに向けられるタツ兄からの温かな好意をひしひしと感じて、胸の奥がほわりと温かくなる。

 こんな風に真摯(しんし)に誰かから想ってもらえたのは本当に久々で。

 なおちゃんからの〝好き〟は、始まった瞬間から奥さんと二股をかける旨を宣言されていたことを思い出した。

 未だ未練がましく消せてもいなければ、着信拒否にも出来ていないなおちゃんの連絡先が、スマートフォンの中に残っている。

 でも、別れを切り出したあの日以降なおちゃんから私に連絡が入ることはなかったから――。

 なおちゃんの中で私の順位は一体《《何番目》》まで落ちていたんだろう?とふと思ってしまった。

 カバンの中に入ったままのスマートフォン。

 今は荷物をどっさり持っていて取り出せないけれど……家に帰ったら今度こそ〝緒川(おがわ)直行(なおゆき)〟という連絡先を消すことが出来る、と確信した。
< 177 / 242 >

この作品をシェア

pagetop