叶わぬ恋だと分かっていても
 貧血のためだろうか。

 お母さんはこのところ氷をやたらと()みたがる。
 お医者様からは大量の氷を食べるのは胃腸に負担がかかってよくないので、一個をゆっくりゆっくり舐め溶かすように言われているのだけれど。

「味はなくてもいいの。とにかく氷をガリガリ噛みたいのよね」

 そう言って吐息を落とすお母さんに、
「そっか。じゃあ明日来るときなるべく粒の大きそうな氷菓子を買ってくるね」
 そう答えながら、買ってくるなら途中で食べるのをやめることが出来る、カップ入りの氷菓『コオリボックス』だな、と思った。

「……代わりというのも変な話だけど、今日は私、お花を買ってきたの。置いといてしおれたら可哀想だし、先に花瓶へ活けてくるね」

 梅雨のじめじめした天候は、空だけでなく気持ちもどんよりさせがちだったから。

 花を飾ったら、殺風景な病室が少しは華やぐかな?と思ったの。
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