叶わぬ恋だと分かっていても
「……えっとね、これはトルコ桔梗って言うんだって。花屋さんが教えてくれたよ? お母さんが《《好きそうな花だなって思って》》、買ってきてみたの」

 心の中では『何言ってるの? お母さん。これ、お母さんが大好きなトルコ桔梗じゃない』。
 そんな言葉がグルグルと渦巻いている。

 でも、私は現実(それ)をお母さんに突きつけることが出来なかったの。


 泣きそうになるのを必死に我慢して、お母さんにくるりと背を向けて。

 花瓶をベッド枕元に置かれた台――床頭台(しょうとうだい)の上に載せてから、触れなくてもいいのに花のバランスを整えるふりをして泣きそうな自分を懸命に誤魔化した。

 お母さんはそんな私の背後から、「うん、そうね。お母さん、その青紫色のお花、綺麗で大好きよ。なのちゃん、買って来てくれて有難う」と屈託のない様子で教えてくれた。

 最後まで〝トルコ桔梗〟の名前が言えなかったお母さんに、私は花を買って来たことをほんのちょっとだけ後悔して――。

 そのせいかな。
 無性にタツ兄に会いたい、って思った。
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