叶わぬ恋だと分かっていても
 明日も仕事なのに。
 私は時計を見ながら言わずにはいられなかった。

「……けど、折角なら二人きりでゆっくり話したい。……その、わ、私がっ、タツ兄の家に行っても……いい?」

 って。

 タツ兄だってきっと明日も仕事だ。

 なのに彼は一瞬だけ息を呑んでから、「……なのちゃん、僕、なのちゃんと違って一人暮らしだけどいいの?」って探るように問うてきて。

 私は消え入りそうな声音で「……うん」って答えた。

 窓の外からは、雨が路面や草木を叩く音が聞こえている。
 きっとほんの少し外に出ただけでかなり濡れてしまうんだろうな。

 そんなことを思いながら、私は既に眠っているお父さんにタツ兄と会ってくる旨の書き置きを残すと、彼と決めた待ち合わせ場所――タツ兄のマンション近くのコインパーキング――へと向かった。


***


「なのちゃんっ」

 タツ兄に指定されたコインパーキングに行くと、レインコートに身を包んだ彼が待っていてくれた。

 ザーザー降りの雨は、松葉杖をついて(たたず)むタツ兄を容赦なく濡らしていて。

 雨具に身を包んでいても身体が冷えてしまうんじゃないかと不安になってしまった。

 私は車から降りると、こちらに向かって手を振ってくれているタツ兄の元へ駆け寄って、彼に傘を差し掛けた。
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