叶わぬ恋だと分かっていても
 でも、目一杯手を伸ばして高く掲げてみても、私が持った傘の下ではタツ兄は結構身体を屈めないといけなくて。

 これではお互いに、とっても歩きにくそう。

「僕、合羽(かっぱ)着てるし大丈夫だよ。なのちゃんが濡れないようにして?」

 結局タツ兄からもっともなことを言われて、私はしぶしぶ彼に差しかけていた傘を自分一人のために持ち直したのだけれど。

 残念ながらすでに結構濡れてしまっていた。

 駐車場からタツ兄のアパートまではほんの数メートルだったけれど、気が付けば足元とか肩の辺りがさらに雨にやられてしまっていて。

 初夏に差し掛かる頃とはいえ、服が水を吸うと体温を奪われて割と寒い。

 身体にピタッと張り付いて見える雨具をまとったタツ兄は大丈夫かな?って心配になった私は、部屋の前でレインコートを脱ぐのに苦戦するタツ兄を手伝わずにはいられなくて。
 一生懸命タツ兄を支えながらコートを脱がせていたら、彼の服から滴り落ちる水滴でさらに濡れて内心『どうしよう』と思った。

(着替え、持ってくれば良かった)

 そんなことをしたらお泊りを意識しているみたいで恥ずかしかったから敢えて持って来なかったけれど、こんなに濡れると分かっていたら、帰りの服くらい用意しておくべきだったのに。

(私のバカ……)

 そんなことを思ったけれど後の祭りだった。
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