叶わぬ恋だと分かっていても
 大切な人との別れは辛い。

 でも、十分過ぎるほど頑張ったお母さんに、誰も頑張れなんて言葉は掛けられなかったし、何なら「もう楽になってもいいよ」とさえ思うようになっていた。

 それほどまでにお母さんが旅立った日の様子は壮絶で、見ていて本当に辛かった。

 こんなに苦しんでも、人は簡単には死ねないんだなと……。
 病気で死ぬということのしんどさをまざまざと見せつけられて。

 何度閉じても薄らと開いてしまうまぶたのせいで、すっかり干からびてしまった白濁したお母さんの眼球を少しでも保護したくて……濡れた脱脂綿を両目に乗せたこと。

 (あえ)ぎ声に混ざる喘鳴(ぜんめい)が凄く苦しそうで、看護師さんにお願いして痰を吸い出してもらうたび、血が混ざるのを見て呼吸を取るべきか、痰をそのままにすべきかを悩んだこと。

 意識を失っているのに懸命に肩で息をしながら、病室の外まで聞こえる大きな声で(あえ)ぎ続けていたお母さんの声を、私はきっと一生忘れられないと思う。

 お母さんはいつになったらこの苦しみから解放されるんだろう。

 そんなお母さんの姿を間近で見ながら、私はずっとそんなことを考えていた。
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