叶わぬ恋だと分かっていても
***

「たっくん。私、たっくんのお陰でお母さんにウェディングドレス姿を見せることが出来て……本当に幸せだったよ。有難う」

 たっくんはお母さんがまだ比較的元気な間に、私に花嫁衣装を着せてくれて。

 自分の足のリハビリと仕事の合間を縫うように病院のスタッフさんとの交渉もしてくれて、私はたっくんと二人、新郎新婦としての姿をお母さんに見せることが出来た。

 それは、お母さんが亡くなるつい数日前のことだったから。

 お母さんに、お嫁さんになった自分の姿を見てもらえたのは奇跡だったんじゃないかと思う。

 もちろん、お母さんが亡くなった日も、お通夜(つや)や葬儀のときも、たっくんは私のそばでずっと私を支えてくれていた。

 それが、どんなに心強かったか――。


『足がこんなじゃなけりゃ、もっと役に泣てたんだけど』

 母の棺桶(かんおけ)を持ち上げたりと、男手がいる時に手助け出来なかったことを悔やむたっくんに、私は『そばにいてくれただけで凄く有難かったよ』と告げて。

 『足が治ったら、沢山沢山力仕事をしてね』と付け加えたら、たっくんは照れ臭そうに『任せといて』と微笑んでくれた。
< 210 / 242 >

この作品をシェア

pagetop