叶わぬ恋だと分かっていても
***

「たっくん、ごめんね。私のせいで色々あべこべになっちゃって」

 アパートを新しく借り直してたっくんと二人。愛フェレットの直太朗を連れ子に、私は新生活を始めたばかり。

 伴侶(はんりょ)を亡くしたお父さんを一人にするのはすごく心配だったけれど、お父さんは犬や猫に囲まれて毎日忙しくしているから大丈夫だ、と私の背中を押してくれた。

 お母さんが亡くなってから半年以上。

 私がウダウダと自分のそばを離れずに一緒に暮らしていたことを、お父さんは結構もどかしく思っていたみたい。

 お母さんが存命の頃は、炊飯器でご飯を炊くことも出来ないような、典型的な昭和男だったお父さんが、お米を研いで自炊(じすい)をするようになって。

 メバルの煮つけを作ってくれて、それを私にふるまってくれながら、「わしは何でも一人で出来るようになったのに、菜乃香(なのか)はいつまで建興(たつおき)くんを待たせるつもりだ?」と叱られてしまった。
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