叶わぬ恋だと分かっていても
***

「お義父(とう)さんの家もさ、そんなに遠いわけじゃないし、ちょいちょい様子を見に行けばいいよ」

 やっと引っ越しの荷物が片付いて、二人並んでコーヒーを飲んでいたら、たっくんがそんな風に言ってくれた。

 実際実家とアパートは車で十分とかからない距離。

 たっくんが、一人暮らしのうちの父を気遣って、うちの実家近くにアパートを探そうと言ってくれた結果だ。

 たっくんのご両親は二人とも健在だから、それほど心配しなくていいからね、と言うのがその時のたっくんの言い分だった。


「うん、そうだね」

 とはいえ昭和(むかし)気質(かたぎ)な父のことだ。
 きっと、余り頻繁に顔を出していたら、『旦那を(ないがし)ろにするな。わしのことはそんなに気にせんでええ』って叱られてしまうんだろうな。

 そのくせ一週間以上電話をしなかったりすると、『たまには連絡してこんと、わし、一人で死んで、(くそ)ぉなっとるかもしれんで?』とか言ってくるタイプ。

 それがうちの父だ。

 本当、面倒くさい人――。

 母が存命の頃は、お母さんがクッションになってくれていたからそこまで感じなかったけれど、お父さんがひとり身になって、そういうのを強く感じさせられるようになった。
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