叶わぬ恋だと分かっていても
 お母さんは、お父さんのこういうのをみんな受け止めてくれていたんだなぁと、母の偉大さを感じて。

(ホント、お母さんには敵わないな)

 ふと母のことを思い出したら、もう会えないことが悲しくなって、胸の奥がキュッと切なく(うず)いた。

「……菜乃香(なのか)?」

 そうして私の旦那様――建興(たつおき)くんは、そんな私の心の機微を敏感に感じ取って気遣ってくれる人。

「ちょっとね、お母さんのこと思い出してしんみりしちゃった」

 淡く微笑んだら、コーヒーカップを卓上に戻したたっくんが、私の手の中のカップもスッと奪い取って同じようにして。

「素敵なお母さんだったもんな」

 ギュッと私を抱きしめてくれた。


「きゃっ」

 すっかり足も良くなったたっくんは、そのまま私を横抱きに抱き上げると、寝室へと向かう。

「あ、あの……たっくん?」

「寂しそうな菜乃香の顔見てたら、慰めてあげたくなった」

 だなんてもっともらしいことを言ってくるけれど、その瞳は情欲を(はら)んでいて。

「明日も仕事なのでお手柔らかにお願いします」

 私はたっくんの首筋にギューッとしがみ付いてそうお願いした。
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