叶わぬ恋だと分かっていても
「そっか……。そういう事情なら菜乃香(なのか)が慎重になるのも分かるな。……僕もその話を聞いたら安易に掛け直してみなよって言うの、ちょっと戸惑うし」

 たっくんの言葉はもっともだと思う。

 私は「ごめんね」と要らない心配をかけたことを謝ってから、スマートフォンを再度机上に戻した。

 だけどそれと同時、またしても(くだん)の番号から五度目の着信が入ってきて――。

 出るべきか否か。
 迷いに眉根を寄せてたっくんの方を見たら、「とりあえず出てみたら?」と、どこか不安そうな顔で言ってくれた。

 私は彼の言葉に小さくうなずくと、たっくんの気持ちが少しでも晴れたらいいなと思って、スピーカー通話で応答することにした。

 もしなおちゃん絡みじゃなければスピーカー通話を辞めたらいよね?

 そう思って。


***


「もしもし?」

 恐る恐る通話に応じたら、向こうでホッとしたような吐息が聞こえた。

 そうしてガサガサと言う衣擦れの音。

 あとは鼻をすする(かす)かな気配。

(もしかして、電話の先の人、泣いてる?)

 そんなふうに思ったけれど、何故先方さんがそんな状態で私に電話してくるのかがさっぱり分からなかった。


『……ご、ごめ、なさい。何度も電話してしまって。私、古田(ふるた)夏美(なつみ)と言、います。戸倉(とくら)……菜乃香(なのか)さ、んの番号でお間違いな、いでしょうか』

 合間合間でグシュグシュと鼻をすすりながら、見知らぬ女性がそう名乗って。

 私はたっくんと顔を見合わせて予想外の展開にキョトンとした。
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