叶わぬ恋だと分かっていても
あのとき私が彼の求めに応じていたら、という不毛な想い
私のことを〝戸倉菜乃香〟と旧姓で呼んできたところからして、電話口の女性――古田夏美さん――は私が結婚したことを知らないみたいだった。
でも、だからと言ってよく素性の分からない相手に「私、結婚して今は波野菜乃香になっています。戸倉は旧姓です」と説明するのも何だか違う気がして。
私はそこに関しては訂正しないまま黙っておくことにした。
結果、菜乃香だと言う意味では間違っていないと言う意味で「はい、合ってます」とだけ答えたのだけれど。
私の言葉をすぐ横で聞いているたっくんのことだけは気になってしまう。
私がたっくんの立場なら、もしかしたらそこ、ちゃんと訂正して欲しかったかも?と思うと、自分の判断が正しかったのかちょっぴり不安になった。
だけど――。
そんなことを悠長に考えていられないくらいに突然、電話口から『わぁっ』と泣く声が聞えてきて。
私は、余りのことに思わずたっくんと顔を見合わせてしまう。
もちろん、電話が掛かってきてすぐの時から電話口の夏美さんは、何故だか泣いている気配だった。
だけど……私が菜乃香であることの〝何が〟彼女をそこまで感極まらせたのかが分からなくて。
でも、だからと言ってよく素性の分からない相手に「私、結婚して今は波野菜乃香になっています。戸倉は旧姓です」と説明するのも何だか違う気がして。
私はそこに関しては訂正しないまま黙っておくことにした。
結果、菜乃香だと言う意味では間違っていないと言う意味で「はい、合ってます」とだけ答えたのだけれど。
私の言葉をすぐ横で聞いているたっくんのことだけは気になってしまう。
私がたっくんの立場なら、もしかしたらそこ、ちゃんと訂正して欲しかったかも?と思うと、自分の判断が正しかったのかちょっぴり不安になった。
だけど――。
そんなことを悠長に考えていられないくらいに突然、電話口から『わぁっ』と泣く声が聞えてきて。
私は、余りのことに思わずたっくんと顔を見合わせてしまう。
もちろん、電話が掛かってきてすぐの時から電話口の夏美さんは、何故だか泣いている気配だった。
だけど……私が菜乃香であることの〝何が〟彼女をそこまで感極まらせたのかが分からなくて。