叶わぬ恋だと分かっていても
 もちろん、私だってその疑念に思い当たる節がないわけじゃない。

 私がなおちゃんとサヨナラした原因は、なおちゃんに奥様以外の女性の影を感じたからだもの。

 でも、だったら尚のこと……私はそんな相手と仲良くなりたくなんかない。

 そんな風に思ったけれど〝なっちゃん〟と呼び掛けないと前に進めない気もして。

 私はしぶしぶ夏美さんの提案を受け入れた。

「じゃあ、なっちゃん。私ね、ひとつだけ貴女に伝えておかなきゃいけないことがあるの」

『……な、んでしょう?』

 泣きながらもそんな声が返って来て、私はちょっとだけ安堵(あんど)する。

「実はね、私、ちょっと前に結婚してて……。すぐそばで主人もこの電話を聞いているの」

『えっ? ……ご、主人、が? あのっ、そ、の方は……()乃香(のか)さんと……なおさんのこと』

「知ってます。だからこそ不安にさせたくなくて。貴女のお話もどうやら《《緒川さん》》絡みみたいですし……スピーカー通話で主人にも聞こえるようにしてるんですけど……差し支えありませんか?」

 あえて〝なおちゃん〟と言わずに〝緒川さん〟と呼んで、彼との関係に線引きをした上でそう切り出した。

 さすがにイヤって言われちゃうかな?

 そう懸念した私に、夏美さんが案外アッサリ『……構い、ません』と返してくれてホッとしたのだけれど――。

『その、()、が……菜乃香さ、とお会いしやすく、なると(おも)、……ので』

 と続いて、どういう意味?となってしまった。
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