叶わぬ恋だと分かっていても
***

『なおさんが……緒川(おがわ)直行(なおゆき)さんが……今朝、亡くなりました。菜乃香(なのか)さんは……そのことをご存、知です、か?』

 声を震わせながら、嗚咽(おえつ)混じりに古田(ふるた)夏美(なつみ)と名乗った見知らぬ女性が、そんな意味不明のことを言ってくる。

「え……?」

 私、昨夕なおちゃんと話したばかりだよ……?
 なのに亡くなっただなんて何の冗談?

「嘘、ですよね……? いきなり電話してきてバカなこと言わないで下さい。……だって私、昨日彼からの電話を受けて……それで……」


 ――頼むから俺を助けると思って顔見せてくれよ。
 ――俺、菜乃香(なのか)がいないと駄目なんだ。
 ――会いたい。


 そう言ってきたなおちゃんを、私はもう結婚したから……という理由で突き放した。

「私、私……」

 混乱してうまく言葉が(つむ)げない。
 どうしよう。
 お願いだから嘘だと言って?

 余りの衝撃に呼吸が上手く出来なくなってしまった私を、たっくんが無言で抱きしめてくれた。

「菜乃香、しっかりしろ」

 そうして、痛いくらいに腕に力を込められる。

 私はたっくんを虚ろな目で見詰めてポロリと涙を落とした。
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