叶わぬ恋だと分かっていても
***

 夏美さん(なっちゃん)との待ち合わせ場所は市内を流れる一級河川の近くにある大手グループの葬祭会館駐車場で。

 なおちゃんの葬儀とお通夜も、そこで行われるらしかった。

 私はかつてなおちゃんから、そこの葬儀場へ行くと何故か肩や頭が重くなるから苦手なんだと聞いことがある。
 だから知人の葬儀なんかでそこへ行かないといけないときには、清めの塩やお守りが手放せないんだ、とも。

(何でよりによってここなんだろう)

 ぼんやりとした頭でそう思わずにはいられない。

(やっぱりなおちゃんのお通夜や葬儀じゃないんじゃないかな? 彼なら絶対ここだけは避けるはずだもん)

 今更だけどそんな可能性を捨て切れないと言ったら、みんなからバカだと言われるだろうか。


***


 なっちゃんは黒のワンボックスカーに乗ってくると言っていた。

 大きめの、ファミリーカーもかくやという車に乗ってくることで、彼女が独り身ではないことを何となく察してしまう。

 私は赤色の軽自動車で行くと伝えて電話を切ったのは、ついさっきのこと。

 オロオロと心配そうにするたっくんに、喪服に着替えた私は「大丈夫だよ。行ってくるね」と微笑んで、単身ここへ来た。
< 226 / 242 >

この作品をシェア

pagetop