叶わぬ恋だと分かっていても
 私には、なおちゃんが亡くなる前日、なおちゃん自身から掛かってきた電話で、彼からのSOSを蹴ったという引け目がある。

 だから、もし仮になっちゃんからそう責められていたとしても、きっと言い返したりは出来なかったと思う。


「ごめんなさい……」

 私を責めることが出来ず、黙り込んでハラハラと涙をこぼすなっちゃんに、私は謝ることしか出来なかった。

 その謝罪がなおちゃんのそばにいられなかったことに対してなのか、なおちゃんの自殺を止められなかったことに対してなのか、はたまたなっちゃんに辛いことを全て背負わせて、自分だけ蚊帳(かや)の外で幸せを噛み締めてしまっていたことに対してなのか、自分でも分からなくて。

「……それは……何に対する謝罪ですか?」

 なっちゃんにポツンと問い掛けられたけれど私はうまく答えることが出来なくて、聞こえなかったふりをした。


***


 なっちゃんとともにお通夜に参列して……変わり果てたなおちゃんの顔を見た。

 縊死(いし)、というともっと顔が浮腫(むく)んだり苦しそうに歪んでいたりするのかなと覚悟して彼の顔を見たのだけれど。

 なおちゃんは思いのほか穏やかな顔をして棺に横たわっていた。

 きっと鬱血痕の残っているであろう首の辺りも、棺の小窓から覗いたのでは見えないように工夫が施されていて。

 その顔が、顔色が悪いということ以外あまりにもいつも通りに見えたから。

 私はまたしても彼の死を明確に受け入れることが出来なくて、そこでもやっぱり涙が出てこなかった。
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