叶わぬ恋だと分かっていても
 死者に(むち)打つような発言が、理由はどうあれ良くないことは火を見るよりも明らかなのに。

 少し考えれば分かりそうなことだけれど、恐らく同じ立場になった事がない人には気付きにくいことなんだろう。

 私はなおちゃんの死で、そう言う想いがあることにも気付くことが出来るようになれた。

 人の痛みに、少しだけ沢山寄り添えるスキルが身に付いたんじゃないかと、そんな風に思う時がある。

 悲しいけれど、私はそれをなおちゃんからの贈り物だと思っているの。


***


 あれから数年。

 たっくんとの間に可愛い男の子と女の子に恵まれた私は、短期間の間に大切な人を一気に二人も喪失(うしな)ったにも関わらず、そんなことを感じさせない程度には幸せに暮らしているように見えていると思う。

 その上で、やはり一人になるとなおちゃんを死なせてしまったことを思い出さない日はないし、後悔だってずっと抱えて暮らしているのだけれど。


 そのくらいに、私の中で大切だった人の自死というのは重く心に伸し掛かっていて……下手をすると母の病死を凌駕(りょうが)するほどの想いに捕らわれていることすらある。

 でも――。

 だからと言って、じゃあもう一度人生がやり直せますってなった時、なおちゃんと関わらない人生を選ぶかと言われたら、私は胸を張って「いいえ」と答えるの。

 例えどんなに頑張って回避しようとしても、絶対に同じ結末を迎えるのだとしてもそこだけは譲れない想いだから――。

 なおちゃんに出会わなかった私は、私じゃない。

 私はなおちゃんを愛したことも、なおちゃんを失ったことも。

 そうしてなおちゃんを失うことでたっくんに出会えたことも。

 全部全部受け入れて、迷いながらもしっかりと生きて行く道を選択する。


 そう。
 例えどんなに不毛な、叶わぬ恋だと分かっていても……。

 私は何度でもなおちゃんと出会って、何度でも恋に落ちて、何度でも彼に失恋する人生を選びたい。



  END(2021/03/01-2023/07/01)
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