叶わぬ恋だと分かっていても
***

 そう。
 私が配属された工場は、50人以上の男性作業職員に対して、女性は私ともう1人、先輩事務員の渡辺(わたなべ)真帆(まほ)さんだけ。
 渡辺さんはとってもおおらかで気さくな女性で。私より3つ年上の本当に面倒見がいい素敵な人だ。

「分かんない事があったら遠慮なく聞いてね」

 その言葉の通り、自分が忙しい時でも、私が困ったことがあると、嫌な顔ひとつせず、すぐに救いの手を差し伸べてくれる。


 広い事務所――机だけは工場長のものや、現場職の課長のものまであるのでたくさんある――に、基本私と渡辺さんのふたりきり。


 ここには、1階階段下に小さな現場事務所があって、宮部(みやべ)工場長はずっとそちらに詰めているし、工場長補佐の長和(ながわ)さんもそんな感じ。

 おふたりは工場内のどこかにいらっしゃるか、現場事務所で書類と格闘しているかのどちらかで、最上階――階数的には3階だけど、2階の工場スペースの天井がとても高いので、実質5階ぐらいの高さに位置している――の、だだっ広い事務所にはほとんど顔をお出しにならない。

 私たちがいる最上階のフロアには、一応壁で仕切られた会議室なども完備されているから、来客があった時なんかに、宮部工場長に伴われた客人(きゃくじん)数名が上がってくることがある程度。

 でも、そんなことは数ヶ月に1回あるかないかだから気楽なものよと渡辺さんが笑った。
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