叶わぬ恋だと分かっていても
 そうして何枚も何枚も図面を描くうちに、私にも渡辺さんと同じようなスキルが身に付いて。

 1日にこなせる成績表の数は平均10枚程度。

 決して多くはないけれど、毎日がとても充実していて――。


 たまに本社の女性陣みんなをお昼休みに工場に招いて、事務所外のテラスでお弁当を食べるのもすごく楽しかった。

 市役所では感じたことのない正社員としての〝一体感〟がすごく心地よくて。

 唯一不満があるとすれば、責任ある仕事をする中で、たまに発生する残業や職場の立地的な問題で、市役所で働いていた時のようになおちゃんと頻繁に会えなくなったことぐらい。


 何となくだけど、なおちゃんは会える頻度が減ってしまったら、その穴を埋めるために新たな女性を作る気がして。
 残業があるたびに、それが不安でたまらなくなった。


 そう訴えるたび、「俺はそんなに器用じゃないよ」って彼は笑うけれど、現に奥さんがいるのに私と付き合っていることに、なおちゃんはそんなに罪悪感を覚えていないように見える。

 きっと私に対しても、そういう不義理なところを遺憾なく発揮しちゃうんじゃないかな?と考えずにはいられなくて。
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