叶わぬ恋だと分かっていても
***

菜乃香(なのか)、何を考えているの?」

 気が付けば、なおちゃんが私の制服のベストの前を全開にして、その下のブラウスのボタンも半分以上外した後で。

 ブラの肩紐をズラすようにして乳房に口付けながら、上目遣いでそう問いかけてくるの。


「か、い社のこと、とかっ、思い出して、たっ」

 声を出そうとするたびに胸の膨らみをやんわり包み込むように押し上げられて。
 ブラの布地が敏感なところに時折こすれて思わず声が震えてしまう。

「会社のことって……いい男でもいた?」

 その言葉と同時、皮膚にチクリとした痛みが走る。

「やんっ、痛い、なおちゃんっ」

 いつもより強めに吸い上げられた皮膚は、赤紫に鬱血して、しばらくは消えそうになくて。

 転職したばかりで落ち着かないから、私はまだアパート探しすら始めていない。

 もう少し落ち着くまでは、両親たちと実家住まいの身。

 両親だって20歳(はたち)を超えた娘がお風呂に入っているとき、わざわざ覗きにくるようなことはないけれど、それでも脱衣所にいる時などに、不意にお母さんに扉を開けられて話しかけられることはある。

 だからキスマークをつけられるたび、私、ソワソワさせられるの。
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