叶わぬ恋だと分かっていても
「なおちゃん、やめ、てっ。私、なおちゃん以外の前で脱いだりしない、からぁっ」

 必死で訴えてみるけれど、なおちゃんにとっては真実なんてどうでもいいのかも知れない。

「きゃっ、ぁ……!」

 一瞬だけグッと噛みつく力を強められた私は、ギュッと目を瞑ってその痛みに耐えた。

 もちろん、噛み切られるほど酷くはされていないのだけれど、先に言われた言葉のせいで、私、すごくすごく怖くて。


「なおちゃん、信じて。私にはなおちゃんしか見えてないっ!」

 例え新しい環境に若い独身男性がいたとして――もし仮にその人が私に好意を寄せてくれたとしても。

 私はなおちゃん以外に割くことができる、時間も気持ちのゆとりもないの。


「前にも言ったけど。本気の相手なら……いいんだよ?」

 乳房から離れてくれたなおちゃんが、両手でゆるゆると膨らみを(もてあそ)びながら、耳元でそうささやいてきて。

 でも言葉とは裏腹、彼の指先からは「離さないよ?」という意思が伝わってくるようで。

 私はフルフルと首を振った。


「私にはなおちゃんだけ、だからっ」


 ギュッと自分からなおちゃんに抱きついて、彼の冷たい唇に自ら舌を這わせて口付けを乞う。


 転職を機に何か変わるかも知れないと少し期待したけれど――。

 きっと変わったとしたら悪い方に、だ。

 私はますますなおちゃんにがんじがらめにされていく自分を自覚せずにはいられなかった。
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