叶わぬ恋だと分かっていても
 なおちゃんは市役所の職員さんだけあって、市内のこと――特に地区ごとの治安の良し悪し――に詳しかった。

 若い女の子が1人で暮らすならこことここは避けたほうがいい、逆にこの辺りはお勧め……など、私が知らないことをあれこれ教えてくれて。

 不動産屋さんが、彼の知識に舌を巻いていたくらい。


 お金さえ気にしなければ、セキュリティ面でも安心できる物件を借りることが出来るのだろうけれど、現実問題私が稼げる給料の中で、賃料に充てられる金額は5万円以内が関の山だった。

 だから、せめて立地でぐらいは少しでも不安要素を減らしておくべきだと考えたみたい。

 そういうところ、やはりなおちゃんは年上の男性なんだなという感じがして、とても頼り甲斐があった。


 田舎なので贅沢を言わなければ、4万円程度の家賃でも、2LDKの物件が結構あって。
 けれど、私には車もあるので駐車料金が別途発生することを考えると、賃料の上限は5万円から駐車料金や共益費などを差し引いた額で探さないといけない。


 いくつかの不動産屋さんを回った結果、私が選んだのは市役所まで徒歩15分くらいの地区にある、山際の小さなアパートで。

 鉄筋構造の2階建てで、1フロアに2世帯ずつ入れる、2LDKの築年数が結構経った古いアパートだった。
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