叶わぬ恋だと分かっていても
 空きがあったのは、そのアパートの2階、階段(てまえ)側の部屋と、1階の奥側の部屋。


 なおちゃんが、女の子には2階以上の方が安全だと言うので、物件選びの時も1階の部屋は最初から視野に入れていなかった私は、このアパートでも迷わず2階の部屋を見せてもらうことにした。

 不動産屋さんの話によると、2階・奥にあたるお隣には老夫婦が、私が下見をした部屋の真下には年配の女性が一人暮らしをなさっているんだとか。


「ここなら治安も悪くないし、徒歩圏内にスーパーもある。外観は古いけど内装は改築済みで綺麗だし家賃も予算内で手頃だ。俺は割といいと思うぞ?」

 一緒に部屋の下見に付いてきてくれたなおちゃんが、そう言ったから、右も左も分からない私は「だったらここでいいかな」と思う。

 私がどうしても譲れなかった、バス・トイレが別々になっていると言う条件も、お風呂は追い焚きができたら嬉しいなという希望も、ここはクリアしていたし、何より一番心配だった家賃が、駐車料金や共益費込みで4万5千円と、とても現実的に思えて。

 これなら、私の少ないお給料でもちゃんとやりくり出来る。

「ここに決めようかな」

 そうつぶやいたら、なおちゃんが「いいね」というようにギュッと手を握ってくれた。
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