叶わぬ恋だと分かっていても
「なっ、なんでそのこと……」

 思わず言ったら、「やっぱりな」ってニヤリとされて。
 私は彼にカマをかけられたんだと理解した。

「いつも車の中で、ばっかだったもんな。毎度ホテルっていうのも菜乃香(なのか)が恥ずかしいだろうと思って誘えなかったけど……お前が一人暮らしを始めてくれたら、そういうの全部解決出来るんだよな」

 そっと優しく頭を撫でられて、「そんなトコまで菜乃香(なのか)に心配させて悪かったな」と謝られた。

 私は何も言わなくてもなおちゃんが察してくれたことが嬉しくて、ふるふると首を振る。

「私こそ……なおちゃんに何も相談しなくてごめんね」

 言ったら、「確かに寂しいって思ったけど……そこが菜乃香(なのか)らしくもあんだよ」と微笑まれた。

「だったら尚更、だ。菜乃香(なのか)のアパートは俺の家にもなるわけだし、あれこれ援助させてもらってもバチはあたらないと思うんだけど」

 ――な?と畳みかけられて、私は恐る恐る「ありがとう」とうなずいた。


 なおちゃんはそんな風に言ってくれたけれど、頼るのは最初だけにしよう。

 月々のお家賃については、自分で何とかやりくりする。

 店内に戻って行くなおちゃんの後ろ姿を見るとはなしに眺めて付き従いながら、私はそんなことを思った。
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