叶わぬ恋だと分かっていても
 その、慣れない行為に思わずギュッと身体に力が入ったけれど、基本何かされることに従順な私は、侵入してくる舌に噛み付いたりしようとは思えなくて。

 そればかりか、優しくすり合わされる舌が何だか心地よくすら思えて、ふにゃりと意識がとろけそうになる。

 私、幼い頃から強引な人に弱くて、強く出られるとその人に流されてしまう悪癖があった。

 別に押さえつけられて育ったわけでも何でもないのに、本能的にそうしておけば周りの機嫌を損ねないことを知っていたから。

 強い者に(おもね)っているつもりはないのだけれど、結果的にはそう見えるんだと思う。

 4つ年の離れた姉に、「あんたのそういうところ、見ていて不安になる」と言われたことがある。

 こんな、ある意味セクハラだと思えるようなことをされてしまった時でさえも、私はそんなお馬鹿な本領を発揮してしまう。

 ひどい!と相手を(ののし)って引っ(ぱた)くことさえ出来なくて、ただただ呆然とする私に、

「強引でごめん。けど……年甲斐もなく、キミが堪らなく好きなんだ。――ダメ……かな?」

 緒川(おがわ)さんが懇願(こんがん)するようにそう問いかけてきた。
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