叶わぬ恋だと分かっていても
 これは、息が上がるほど気持ちいい強引なキスをたっぷり私に施して、唇を離したのと同じ人?

 思わずそう戸惑ってしまうくらいの、不安そうで今にも泣き出してしまいそうな顔で覗き込まれた私は

「…………ダメじゃ……ない、です」

 その心許(こころもと)なげな表情にほだされるみたいに、半ば無意識にそう答えていた。


 私、子供の頃からいつもそう。

 求められたら嫌と言えない。
 好きだと言われたら、絶対無理だと言う相手でもない限り、応えたいと思ってしまう。断れない。

 攻略しやすい、チョロい女の子だ。

 私に言い寄る男性は、もしかしたら本能的に私のそんな一面を見抜いているのかも知れない。

 告白してくれる人はいつも大抵すごく強引。
 その癖、ここぞという場面では情に訴えるように甘えた顔を見せて私を翻弄(ほんろう)する。

 そう。今の緒川(おがわ)さんみたいに。

 自分でもこんなことじゃよくないと思う。

 でも直せないの。

 そうして情にほだされやすい私は、強く求められて付き合ったはずの相手に、いつの間にか切なくなるくらいのめり込んでしまう。

 愛情を注がれたら、その人の良いところばかりを探して、欠点を見られなくなる。
 嫌なところに気付いても、見なかったことにして目を逸らしてしまう。

 そう、きっと今回も――。

 嬉しそうに「ありがとう」って笑う緒川さんに抱きしめられながら、そんな予感がした。
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