叶わぬ恋だと分かっていても
***

 緒川(おがわ)さんの38歳の誕生日に告白をされて、何だかよく分からないままに流されるように重ねてしまったデートも、今回で4度目。

 1回だけなら気の迷いだと言えたと思う。

 でも、2回、3回と続けてしまったら、それはもう立派に自分の意志、だよね。


 あの日。
 緒川さんは私に、彼の彼女になることをダメじゃないと言わせた後で、「――ただ、俺には妻と子供がいるんだ。妻に対して恋愛感情はないけれど家族としての情はある。それを分かって欲しいんだ」と言った。

 私にはその詭弁にも聞こえる言葉の意味がサッパリ分からなくて。

「あ、あの……それはどう言う……?」

 混乱する頭で何とかそう問いかけたら、「戸倉(とくら)さんと結婚することは出来ないって意味だよ」って悲しそうな顔をするの。

 それは私に愛人になれ、と言っているってことなんでしょうか?

 23歳で世間知らずの私にも、さすがに妻子ある男性との色恋は御法度(ごはっと)だと言うことは分かる。


「そ、れなら私――」

 今の話はなかったことにして欲しい。


 そう言いたかったのに。
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