叶わぬ恋だと分かっていても
 なおちゃんからは福岡行きにかかる経費は一切合切(いっさいがっさい)全てそこから(まかな)うように、と言われているけれど、何となく何もかもおんぶに抱っこは彼に申し訳なくて、駐車場料金は自分のお財布から出すことにした。

 有人の料金所で愛車のナンバーを告げて3日分の駐車料金を先払いして駐車許可券を発行してもらうと、係の人の指示通りそれをダッシュボード上――、外からよく見える位置に置いた。

 それからハッチバックを開けて荷物を取り出すと、主に服でぎっしりになったモスグリーンのトラベルバッグを肩掛けにして、えっちらおっちら駅舎に向かって。

 何でこの駅は階段を上った先に作ったんだろう。
 盆地になっていて、近くを流れる川が氾濫したら水没しちゃうからかな。
 そういえば数年前の台風のとき、このあたり一帯、1mくらい冠水して大変だったんだっけ。

 そう思いはするものの、晴天の空の(もと)で大荷物を抱えた身としては、10段ばかりのステップでさえ恨めしい。

 よくよく考えてみたら、なおちゃんと一緒にいる時は、彼が何も言わなくても重い荷物をサッと持ち上げてくれていたんだ。
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